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写真家・尾崎大輔のblog


by daisukeozaki
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KAGEROU 齋藤智裕 批評

本当にこういうことは書きたくなかったのだが、一つ思うところが強くあり、思わずブログに書いてしまった。

賞の賞金2000万円を蹴ったという1点において興味をひかれ、良くなくてもかわいいオネエちゃんと飲みに行った時のネタにと思い、購入。本日撮影まで時間があったので喫茶店にて読破。結構、厳しい意見を書くので、まず、一応、最近2ヶ月くらいの読んだ本を挙げておきます。私の小説に対してのリテラシー判断がどれくらいのものかこれを見て各々の推測にお任せします。

くっすん大黒 町田康
どうで死ぬ身の一踊り 西村賢太
愛でもない青春でもない旅立たない 前田司郎
名もなき孤児たちの墓 中原昌也
伝奇集 J・L・ボルヘス
狂気の歴史 ミシェル・フーコー
プロゴーメナ カント
他者と死者 ラカンによるレヴィナス 内田樹
切りとれ、あの祈る手を 佐々木中
犬でもわかる現代物理 チャド・オーゼル
薬指の標本 小川洋子
仏教とアドラー心理学 岡野守也

といった、読書歴の中「KAGEROU」。

まず、最初に読み始めて比喩の部分はまぁ普通じゃないのと読み進めると、「ビリージーンのマイケルジャクソンのような」という比喩が登場。あれ?と思うのが遅かったのか、そのまま坂道を転がるように悪い方向に。チャプター1を読み終わる頃には、あまりのリアリティのなさ(自殺をしようとした人が助けられ、すぐにジョークを飛ばせる会話が出来るのか?ちなみに戦争のような死を感じる極限状態では4人に1人は失禁してしまう。中には大きいほうを漏らしてしまう人も。それがPTSDになる症例もたくさんあるらしい)、また作者の思想や考えのなさにここで読むのをやめようかと思った。
私自身、自殺を擁護するのでもなければ、肯定するのでもないが、プリニウスが言うように、「・・・神といえども、決してすべてを成し得るわけではない。何故なら神は、たとえ彼がみずからそれを欲したとしても、自殺することだけはかなわないのだ。ところが、神は人間に対しては、かくも多くの苦難に充ちた人生における最上の賜物として、自殺の能力を賦与してくれた。・・・」とこれには言うに及ばなくても良いが、少しくらい著者の意志の貫徹による死に対する考えを拝読したかった。
話はだいぶそれたが、その後もチャプターは続いていくが、展開が稚拙きわまりなく、変な冗談は出てくるし、何を考えているのかわからなかった。それぞれに突っ込んでいったらきりがなくなる。また、著者の読書経験を感じさせるようなものが数カ所でてくるが、おなじみの村上春樹ぐらいであきらかな読書量の少なさを感じさせた。もちろん、読書をしているからといって、いい文章が書ける訳ではないが、文章という表現手段を選んだのだから、何らかの読書による原体験に感化されたのであろう。それが全く感じられなかった。

2時間ぐらいで読み終わったが、無性に腹立たしかった。それは出版社、ポプラ社に対して。

固有名詞は避けるが、昔、写真の業界で大賞作品は写真集が出版できるという出版社の賞があった。ただ、裏では優秀賞の写真家に出版社から「君の作品は最後の最後まで大賞になるかどうかの作品だったんだよ。今回は惜しかったけど、是非うちから自費出版をしてみては?全国の書店にも配本されるし。」と連絡がいき、一応自費出版はしてくれるのだが、話と違うことがいくともあり、他よりも高い制作費を請求されていたらしい。何百万もかかって1冊出すことが写真家にとってどれだけの負担になるのかわかっているのだろうか。

ポプラ社はもちろんそこまでではないが、ある程度の人が読めば、このKAGEROUが作品として評価に値するかの判断はつく。もちろんこの本によって多額のお金がポプラ社にはいるであろう。

もしかしたら、本当に文才のある人がポプラ社のこの賞に応募していて、賞が取れなかったことにより、筆をおったならば、それこそ取り返しのつかないことだ。そういうことを出版社は考えなかったのだろうか?(そうでないことを望みたいし、それぐらいで筆を折るぐらいならばその程度の才能であろう。孤独こそが表現者にとっての最愛の批評家であるから。)お金が入るからといって、作品と呼ぶにはあまりに貧相なものを書いた著名人を担ぎ上げ、売れたもの勝ち的発想はやめてほしい。

齋藤智裕さんも言い方は非常に悪いが被害者の一人であろう。誰しも、何らかの形の表現欲はあるはずだ。それを口車に乗せ、搾取するのはやめてほしい。大賞受賞作とするのではなく、普通に水嶋ヒロ作ということで、きちんとした編集者の手を入れ、発表したら世の中の評価は同じになっていなかったであろう。ひとつの作品がどれだけ表現者の人生を左右するのかこの出版社はわかっているのだろうか?

次回作へのハードルもかなり上がってしまい、現段階では他の文藝賞をとるのもかなり難しいとは思うが、齋藤智裕さんにもこの経験を真摯に受け止めた次回作を期待しています。それこそ、色々な意見が嫌でも耳に入ってくる立場であろうから、それをもとに経験を積み、頑張っていってほしい。一表現者として。
Commented by 通りすがり at 2010-12-23 10:49 x
出版関係なもので、自分らもネタで読んどいたほうがいいか、と同僚が購入してきたものを職場で読んだクチですが……これは確かに酷かった。
「文章読みやすい」って意見をよく見ますが、これは特別に読みやすい文を書ける力があるって話でもないですからねえ。
それなりに練習でもさせれば誰でも出来ちゃうレベルというか、日常会話レベルの文でしかないというか。
比喩や表現ってのは作家の嗜好や考え方がもろに出る部分ですし、我の強い言い回しや難解な表現であろうと敢えて冒険してナンボ。
読みやすいかどうかっていうのは、そういう試みをした上で、読み手にダイレクトに伝わるか、共感なり感動なり畏怖させられるかどうかって話ですから。
内容については仰られてる事と大体同じなので割愛。
どこぞの物書き好きな中学生に同じテーマで小説書かせても、まだ幾分かマシなもん書いてくるだろう(苦笑)とはウチの上司の弁で……実際、自分も他の同僚も、思いつきを適当に書き殴っただけで、創作の生みも苦しみも伝わってこない、で一致しました。
皆、下読み手伝ったりもした事あるような人ばかりなんで創作には寛容なはずなんですけどね。
Commented by とおりすがり at 2010-12-23 11:13 x
で、ポプラ社についてはこれまた全員一致で嫌悪を示してます。
これまた同じですが「この程度のものなら、芸能人タレント本として出せよ」って具合に。
全て下馬評通りの出来レースだったどころか、これそもそも一般公募対象の新人賞ですからね。
直木賞等、既に商品として出版されている作家達の作品を対象としたものならば、まあ色々と話し合いになるんで出来レースも珍しくありません。
でも、これは本当に、一般にいるであろうまだ見ぬ才能を発掘して、試しにウチの会社で本書いてもらいましょう・雑誌に掲載してみましょうって目的でやってるもんです。
そこにタレントねじこんで派手に喧伝して馬鹿売れでウハウハとか、本気で作品送った人からすれば最悪すぎる。賞を与えられる数が少ないのは、それだけ出版枠が限られている事でもあるわけですから…
いきなり50万部近く刷った事を考えると、いくら売れるとはいえ他の枠を相当に圧迫したのは言うまでもないですし。
Commented by とおりすがり at 2010-12-23 11:35 x
長文失礼しております、最後になります

蛇足ですが「自費出版しませんか」ってのは、文芸では昔から現在まである割とポピュラーな「商法」だったりします。
悪質なものになると、上の一般的な賞で7~9割が一次選考落ちして相手にされない事を逆手にとって、一次落ちレベルの応募者のかなりの割合にまで「一次通過」にしちゃう選考基準と、それら全てにある文書を送りつける賞を開催します。その文書には大体「いい作品ですから、自費出版しませんか?」という文面が……なんて事をやってる会社もあります。
他で相手にされない(二次や三次の選考にさえ行けない)分、ひっかかる人もいるそうです。もちろん出版社は儲けだけで、損なんてしません。やっぱり全国書店に置くように働きかけるとか言いますが、現実に無名の自費出版素人の本を置く店なんて無いので「働きかけたけどダメだった」ってオチになります。一冊も売れなくても出版側は損しません、ウハウハです。金払ったほうは価値無しの烙印押されたダンボール箱の山を前に、はぅはぅです。あくまで本を作るのが契約ですから、あんたをプロ作家にしてやるつもりは無いのだそうです、はぅはぅ。
Commented by daisukeozaki at 2010-12-24 00:02
とおりすがりさん、文章拝読させていただきました。
文藝でそのような自費出版を促す商法は以前から知っていました。ブログに書いた写真集の自費出版を勧める会社に関しても、文藝での自費出版が主でした。今はもう潰れてしまい(財政的な理由ですが)、一部では契約内容と違っているなどで裁判にもなっているとも思います。おそらく、名前を出さずともご存知かと思います。
自費出版をする著者もかなりの出版に関する知識(印刷費、流通費、実際の出版後のレスポンス、在庫のストック方法など)があってかつ選択肢としてそれを選ぶならば私は問題ないと思います。それが出版社にしけ儲けがいかないような場合であってもです。
ただ、そこまでのことを知りながら自費出版をする人は稀です。ほとんどの場合は一度も世の中に自分の作品を観てもらってない方達です
Commented by daisukeozaki at 2010-12-24 00:03
ここからは表現者、写真集を出版している著者としての私の意見です。(自分の活動を“表現”とは思っていませんが、それを詳しく説明すると話は違う方向にそれてしまうので。)ブログと重複する部分は多々ありますが、なんらかの表現活動に携わりたいというのは、多くの人がもつ欲望、衝動のようなものです。それに才がある、ないは関係ありません。そこを手玉にとって、商業目的にみを最優先し、表現者をあまりにも軽視している人達には嫌悪感を抱かざるおえないです。それが今回はたまたま出版社であったというだけです。齋藤智裕さんの無知を利用したような行為があまりにも散見しているからです。
様々な理由から見たこの無知も齋藤氏の小説家の才能は感じられない点ではありますが。ただ、これから小説家として生きていこうとする人に対してのスタートラインの立たせ方にしてはあまりにもひどいと思ったのが私の一番の感想です。文藝に携わる人が読んだ場合は、作品だけではなく色々なところに首をひねりたくなるのは当然だと思います。
Commented by daisukeozaki at 2010-12-24 00:04
とおりすがりさんに反論をするようで申し訳ありませんが、腹をくくって表現活動行っている人間にとって売れる売れないは二の次です。自費出版した本の段ボールの山に価値無しの烙印が押されるかどうかは時代の風化に耐え得るかどうかにかかってきます。
写真家の荒木経惟の処女作品集「センチメンタルな旅」は自費出版で、奥さんとの新婚旅行を題材にしたものですが、文字通り売れず、奥さんが自身の情事の写真が載っているにも関わらず、会社の同僚に手売りをしていたらしいです。今、本物を観ようとした場合は東京都写真美術館で飾られているものか、手袋をして観ないといけないほどの価格になっています。19日で終わってしまいましたが、鈴木清という写真家は生業で看板書きの仕事をしながら、自分の好きな写真だけを撮った写真家です。彼が出した写真は1冊を除き、全てが自費出版でした。

Commented by daisukeozaki at 2010-12-24 00:04
一般的に考えれば、それを仕事として生きている人がプロと呼ばれる人なのでしょうが、そうではない人もたくさんいます。彼ら、彼女らは仕事ではなく「私事(しごと)」として職業ではなく、生き方として表現活動を行っている人達です。作品、今回の場合は本ですが、私の場合、それが売れているかどうかは評価の基準となりません。もちろん、売れていて、話題に上がっている回数が増えれば自然と目につく回数も増える事実もありますが。
文藝の世界でもそうだと思います。ニーチェのツァラトゥストラは40部の自費出版で、7部は友人に渡したような状況です。ゲーテも自ら主宰する「プロピュレーン」という文藝雑誌はわずか300部しか売れていないです。その他にもそのような話を挙げればきりがありません。12月5日のブログに似たようなことを書いたので興味があればご覧下さい。
私たちのような人達はたぶん何かにかけて活動を続けていきていく人間なんだと思います。
Commented by daisukeozaki at 2010-12-24 00:05
話は変わりますが、水嶋ヒロに関しては他の方がどのように批評されているか知りませんが、少なくとも彼に関してはほとんど私自身、2000万円を蹴った以外のバイアスはかかっていないと思います。(これが一番大きなバイアスかもしれませんが。)なぜなら、イギリスから帰ってからテレビは家においておらず、現状ではほぼ最近の芸能人はわからないです。仕事で撮影をする場合は、最低限の範囲をネットで調べてから撮影します。俳優をされていた?ようですが、私の観る邦画には出ていないので、雑誌で顔を見る程度です。普通に男前だなと思うぐらいです。一応、参考までに。

通りすがっていただいただけなのに、長文で返信してすみません。
私なりの誠意をもって返信させていただいたつもりです。
Commented at 2013-02-12 18:20 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by daisukeozaki at 2013-02-12 18:42
そうかもしれないっすね。
ただ、私の場合、結局誰かにこの本をあげてしまい、その後、新たに買ったり借りたりして再読もしていないので、それぐらいの価値の小説だったんだと思います。
by daisukeozaki | 2010-12-16 00:26 | Comments(10)