写真家・尾崎大輔のblog


by daisukeozaki
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フローズン・ウォッチフルネス

中井久夫のエッセイは簡単に書店で手に入るものはだいたい読んだ。
フローズン・ウォッチングフルネスも彼の本からの耳学問。日本語に直すと「凍れる警戒性」。

東北の大震災があり、数多くの被災者が心の傷をおった。
中井は、重症の心的外傷患者に対して痛いほど感じるのは、「基本的な安心感」の欠如であると言う。
震災の被災者には明日が今日のように来て去ることが信じきれない。大地が揺るがずにあることも信じきれない。
私達は、この時間と空間についての無根拠な安心感をもち得て初めて生きていける。電車は無事に目的の駅に着くという仮定、父親が娘をいきなりレイプしないという仮定、すれ違いの人間がいきなり包丁で刺してこないという仮定。これらが揺らいだ場合どうなるであろう。しかし、現実問題としてこの安心感が欠如された被災者がいるであろう。

このようなトラウマ患者にみられるのが「凍れる警戒性」という、金属的な仮面のような無表情と主に眼差しなどに表れる警戒性との組み合わされた表情だという。統合失調症や統合失調症気質の表情と間違えやすく、しばしば長期にわたって、時には生涯をつうじ恐怖のままに凍りついた表情がその人の普段の顔となってしまう。中井久夫が思い起こすのは10歳から数年間、異父兄に性的いたずらをされたヴァージニア・ウルフの写真だと例に出している。

私がこれを読んで、ぱっと頭に浮かんだのはユダヤ人大量虐殺のホロコーストにおいて、無差別に選択されたユダヤ人を銃殺していく時にその選択を待つユダヤ人男性一人の表情。まさに「凍れる警戒性」の表情であった。何で見たのか記憶が定かではないが、その目が脳裏に焼き付いている。
私自身がそのような「凍れる警戒性」の表情を撮影したことはない。統合失調症やトラウマをもつ方とお会いすることはあるが「凍れる警戒性」という表情をもっている人は会ったこともないであろう。
撮影する場合は長期間一緒にいるので、最初はどんなに緊張していようが誰しも自然と表情がほぐれてくる。
もし、「凍れる警戒性」の表情をもつ人に会ったならば、その人の笑顔を撮影しようと努力するだろう。
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by daisukeozaki | 2011-07-28 21:06 | Comments(0)