二次元の世界
2011年 12月 09日
「リハビリの夜」 熊谷晋一郎著 医学書院

東京大学医学部卒業の脳性麻痺の小児科医の先生の話。
脳化学的に言えば人間は何かを意識する前に、体が既に自動的に反応をし、行動している。そこに哲学で言われている「自由意志」は存在しない。
著者の場合、体と脳の伝達が巧くいかず、極端な緊張状態に陥ってしまう。大勢の前に立ち、フルートを吹こうとするが、緊張のあまり指がふるえ、うまく動けない状態を創造してもらえればいい。その極限状態が著書のような状態であろう。
小さい頃のリハビリの話から、一人暮らし、研修医を始めた頃の話と物語は進んでいく。
一人暮しを初めたその日に今まで親で介助しかしてこなかったトイレの話や研修医になってせざるおえなくなった注射の話など著書の視点ならではの話が非常に興味深い。
中でも電動車いすを使用するまで、著者は地面にへばりついた状態がほとんどで、所謂‘二次元’の世界で世界でしか生きていなかった。その二次元の世界から見ると世界はこうも違って見えるのかと感じた。当たり前だが、歩いている時にビルのてっぺんに何があるかほとんど気にしない。著者にとってはそれがビルではなく、簞笥に変わるといったところか。また、地面の段差をほとんど私達は気にしないが、著者にとっては特にトイレなどの緊急時には大問題となる。安部公房が「犬の視点で物語を書く。」と言っていたが、著者の場合、それよりも低い位置で、さらに体の自由が利かない。ものと自分との関係を協調することで著者はこれまで生きてきた。それは介助者と被介助者の関係の場合でも同じだ。脳性麻痺の方にお会いする事も多いので、とても参考になったし、福祉関係の方にはすごくお勧めです。
また話の節々でダンスをやっている方にこの本は特にお勧めかもとも思った。本を読んでいる間、なんどか土方巽の映像が頭をよぎった。
こうやって私達は当たり前のように動いている身体を俯瞰してみることはないが、身体と自分の意識が別の状態になった視点で世の中を見てみるとかなり違って見えてくる。