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写真家・尾崎大輔のblog


by daisukeozaki
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詩人と女たち

昨日もテレビを夜見ていると、我らの西村賢太先生が出ていた。
ダメ男文学が好きな方にお勧めなのが、チャールズ・ブコウスキーの「詩人と女たち」。原題は「WOMEN」。

「旅に出るのは、確かに有益だ、旅は想像力を働かせる。・・・・僕の旅は完全に想像のものだ。・・・自然も一切が想像のものだ。小説、つまりまったくの作り話だ。辞書もそう定義している。まちがいない。それに第一、これはだれにだってできることだ。目を閉じさえすればよい。すると人生の向こう側だ。」で始まる、セリーヌの「夜の果てへの旅」。セリーヌは世界を徹底的に呪詛している感じだが、そんなセリーヌから影響を受けたであろうブコウスキーはちょっと違う。酒、ギャンブル、女に溺れる主人公チナスキーは世界の中に頼れるものは何もないような生き方をしながら、しかし、必ず隣には女が存在する。しかも、その女たちは西村文学での固有名詞が存在しない「女」ではなく、どこかものすごく体温を感じる生身の女である。セリーヌの描く世界では生きたいを思わないが、「女たちを見ているとセックスのことばかり考えてしまう。どの女を見てもベッドを共にしたときのことを想像してしまう」とくだりがあり、様々な女の登場するブコウスキーの世界ではどこかで自分には出来ないチナスキーのような生活をしてみたいと嫉妬心を抱かせてしまう。ブコウスキーの世界ではまだ何かに対する興味が存在するのである。その何かが酒、ギャンブル、特に女なのであり、それによって、世界に失望していない。

おもしろい逸話があとがきに書いてあった。
小学校の時、ブコウスキーが当時の大統領が近所のコロシアムを訪れたときのことを作文に書いた。教師は彼の作品をクラスのみんなの前で読み上げるほど絶賛したが、実際、ブコウスキーはコロシアムには行っていなかった。後でそのことを教師に告白すると、その教師は彼を叱るどころか、だからこそ優れた作文を書けたのだと感嘆した。その時彼は「みんなは真実でなく、見事な嘘を求めている」ということに気づき、自分は作家なのだと初めて思ったという。
ブコウスキーが本の中でもセリーヌが好きということがよくわかる。

「勝手に生きろ!」よりも「詩人と女たち」の方が男性は思わず、うなずく部分もたくさんあると思うので、お勧めです。

詩人と女たち_d0170694_21493836.jpg



「詩人と女たち」
チャールズ・ブコウスキー(著)、中川吾郎(訳)、河出文庫(出版社) ¥1470
by daisukeozaki | 2012-01-24 21:51 | | Comments(0)