齋藤陽道さんとの筆談トークイベント
2013年 09月 30日
昨日までPlace Mで開催していた齋藤陽道さんとの「ポーッとチョコレイト」が無事終了しました。
お忙しい中ご来場いただいた方、ありがとうございました!!
筆談トークイベントにお越し頂いた方がツイッターで僕と齋藤さんが武蔵と小次郎みたいだったと言っていて、10年おきぐらいに二人展やれるといいねということで、10年後の40歳になった時の展覧会のDMの写真撮影。
あと、筆談トークイベントにご参加頂いた方が、ありがたいことに文字おこしをして頂きました。
興味のある人は読んでみて下さい。
二人ともども、今年は今からイベントごと目白押しなので、今後ともよろしくお願いします!!!
<開始>
【齋藤】
18:00。
【尾崎】
じゃあ開始します。
【齋藤】
こんにちはー。齋藤です♡
《会場/拍手》
【尾崎】
尾崎です。よろしくお願いします。
《会場/拍手》
【尾崎】
始めはスライドショーを流します。
-------------------------------------
[尾崎さんのスライド/5分]
-------------------------------------
【尾崎】
すいません、僕だけちょっと言葉で説明します。
このスライドショーは…
最初は「写真は私たちの記憶を記録できるんですか?」という、海外で撮った写真になっています。
ロンドンで健常の方と障がいのある方の劇団をちょっと撮っていまして、最初にこれを見せたかったのは、僕は視覚障がいのある方に写真を教えているんですね。
で、さっきの女性の方に「この世で最も美しいものはなんですか?」「美とはなんですか?」と質問したところ、その人の答えが「人間」だったので、「じゃあ僕も人間なんで、僕を撮ってくれませんか?」とお願いして撮っていただいたことから、視覚障がいのある方に写真を教えているっていうのをやっています。
で、最後のほうに僕の写真が出てくるんですけれども…
この抽象的なやつは、使っていただいたカメラで僕も同じように撮った写真で、ああいうふうになったのが、目の見えない人に近い記憶じゃないのかな?と思って、この写真集の中に入れているものです。
( "尾崎さんが写った写真" )
…この写真がそうです。まだ若い。笑
《会場/笑》
【尾崎】
7年ぐらい前っすかね?
で、これは『ポートレート』っていう写真集で、いろんな方のポートレートを撮っているんですけれども、特に何かキャプションをつけるということはやっていないんですね。
つけると…
たとえばさっきの女性の方の写真とかもそうですけれども、"性同一性障害" って書いたら、たぶんもう男にしか見えなくなってしまうので、そういう言葉の要素というのを排除して、ただただ写真を並べたものというかんじで…。
なのでたぶん写真からだけだと…
この展示もそうですけど、どなたが障がいがあって、どなたが障がいがないのかわからないようには
あえて撮っているつもりですね。
そこまでは重要な要素ではないので。
で、たぶんそのうち、ここ2、3年やっているヌードのやつが始まると思います。
……。
これで僕の写真自体は終わりです。
これもある程度まとまっていまして、去年ここで、を展示させてもらって、それからも撮りためていますので、さっきのヌードと、普通のポートレートのやつと、こういうちょっと抽象的なものを、来年あたりに展示しようと思っています。
今回は状況を説明するような文章を、その中に入れてみようかなと思っています。
( "裸の女性2人の写真" )
この写真に対しての撮影日記みたいなのがありまして、それを読ませていただいて、僕のスライドショーを終わりにします。
じゃあ読みます。
「仕事の撮影が終わり、編集者に「尾崎さんが興味ありそうなところに連れて行きますよ」と、新宿のとある雑居ビルに連れて行かれた。
男性数人と女性数人がカウンターで酒を飲んでいる。
反対側にはソファーが数個置かれ、ソファーに囲まれた広い空間が真ん中にある。
編集者からオーナーを紹介され、ふだん持ち歩いている写真集のポストカードを見せながら少し自分の話をし、カウンターで一緒に飲み始めた。
女性2名にヌードを撮っている話をし、「撮らせてもらえないか?」と話を進める。
2人ともに了承を得た後、反対側の空間にバックヤードから出してきたマットレスのベッドを敷き、
撮影の準備を始める。
ベッドを準備する隣で、すでに女性は服を脱いだ状態で待っている。
準備が終わったことを告げると、ベッドの上で少し恥ずかしながら2人は絡み始めた。
それをファインダー越しで見ながら、私はコンパクトカメラのシャッターを切る。
「母親が死ぬまで、母親とするセックスが1番気持ち良かった」と、カウンターで近親相姦の性癖を話しているスーツ姿の中年男性が、その状況に興奮したのであろう。
ズボンを下げ、マスターベーションをし始める。
それを横目に私はシャッターを切り続ける。
結局 私も普通の感覚と違っていて、一般常識で考えれば「異常である」と他人から思われるだろうと最近考える。
私が狂っているのか?
世界が狂っているのか?
また、こういう状況に直面すると、どこまでが日常と地続きで、どこからが非日常なのか。
その境目がドア1枚なのか(?)と感じてしまう。
マスターベーションを行う男性に、「彼女たちがOKならば、あの中に混じってみたらどうですか?」と尋ねると、「こっちのが気持ちいい」と、そのまま自慰行為を続けた。
それを聞いていたカウンターに座っていた男性の1人が「混じっても大丈夫ですか?」と私に問いかけてきて、それを聞いていた女性2人も「OK」と返事が来て、男性は服を脱ぎ、女性2名の間に入っていった。
そのまま私は目の前の人たちに向け、シャッターを切り続けた。
…って、こうやってずっと流れて、他の写真とかも、こういう状況で作っているんですけれども、また来年ぐらいに展示すると思うので、良かったらぜひよろしくお願いします。
じゃあ以上です。ありがとうございます。
《会場/拍手》
【齋藤】
次は僕のスライドを5分ぐらい…。いきます。
-------------------------------------
[齋藤さんのスライド/5分]
-------------------------------------
【齋藤】
終わり!
《会場/拍手》
【齋藤】
5分。あっというま…ね。
【尾崎】
映画を見ているときってどんな感覚?
スライドショーって "音" がないから同じような感じかな、と。
【齋藤】
映画に音がないのが当たり前だから、考えたことないなー。
スライドを見ているときと近いかも。
北野武さんの「いい映画は10枚の写真みたいなものだよ」というセリフにはすごく共感しますね。
【尾崎】
↑黒澤明が初めに言ったのを、北野武がパクったって言ってた。
【齋藤】
へー。僕はTwitterのbotで知った。
【尾崎】
本題で…ポートレートを撮影するときって、どういうタイミングで撮ってるの?
僕らは言葉で色々と指示できるけど…
特に "目" のタイミングとか。
【齋藤】
"目" のタイミング?
【尾崎】
目をつむったりするから。
【齋藤】
僕の撮り方…。
聞こえないということは、写真自体には関係ないけど、音声言語が多数の社会で撮っていくということについて、どうすればよいかずっと考えていました。
今思うことは、"姿勢の良いまなざし" に焦点を合わせて撮っているかなということです。
【尾崎】
僕はポートレートを撮る人は、いつもかなり一緒に時間を過ごしてから撮ります。
たとえば障がい者の施設とかの場合、1年くらいとか。
なので実際に撮影する枚数は、かなり少なくて5枚ぐらいとかかな。
失敗しても「知ってる人だからまた撮れる」っていう状態になってから撮るってかんじ。
仕事はそういうふうにはいかないけど。
【齋藤】
関係づくりから始める…ということですね。
【尾崎】
じゃあ逆に、音が聞こえなくてポートレートを撮るときとか、"人" を見るってことに関して良かったことはある?
知人の失語症の人が、言葉の意味がまったくわからない人なんだけど、そのかわり相手の表情や言葉の音だけで、その人が嘘を言ってるかどうかが一発でわかるっていう人がいて…
【齋藤】
"まったくわからない" とは…?
【尾崎】
理解できない。
全然知らない外国語を聞いてるかんじ。
【齋藤】ふぅん。
音がない=言葉でのやりとりができない…ということでもあって。
でもそれは動物とか植物とかに対しても、
まったく同じ条件なわけですよね。
なので尾崎さんの "人を見る "という言葉を借りると、
「人を人として見ない」から撮れる…と思っています。
たとえもの言わぬものでも、もしかしたら何かをしゃべろうとしているんじゃないかという可能性を保つことができる。
"存在のかたまり" として、すべてを等しく見ることができる…と思っています。
"人" とか "種" で分けることに抵抗がありますね。
そのままでは「差別」の構造からいつまでたっても抜けられないと思う。
【尾崎】
だから今回の展示も "ポートレート" っていうテーマで、
人以外の写真もたんさんあるっていうこと?
【齋藤】
はい。
【尾崎】
僕の場合、人間しか撮ったことがないし、それが僕の写真で追求するテーマだから、犬とか猫とか撮らないのかなぁ。
風景も唯一撮ったことがあるのは、アウシュビッツ収容所のみ。
【齋藤】
アウシュビッツ…。
【尾崎】
うん。で、結局 "人" ってかんじ。
【齋藤】
そこにいた人たちの気配として…。
【尾崎】
うん。ある意味で何もないところだけど、ものすごく人の重さを感じる場所。
特にガス室。
…全然話が変わるけど、夢の中で音楽って聞いたことはありますか?
【齋藤】
夢の中…。
僕は夢を覚えられないんですよね。
べつの例として、今すぐちかくに、ろう者の人がいるので聞いてみます。
……。
「まったくない。そもそも音ってあるの?」だそうです。
【尾崎】
僕の知人の先天的視覚障がい者の人が、生まれてから一度も世界を見たことがないけど、夢の中では映像が出てきて…
「寝ると世界が見える」っていう人がいて…。
【齋藤】
"世界がみえる" ?
世界…。
でも、僕らとはまったくちがう世界ですよね。きっと。
【尾崎】
うん。同じような他の先天的視覚障がい者の人は、「そもそも見たことがないのに、どうしてそれが映像だとわかるのか?」って。
だからもしかすると、齋藤さんも音楽を聞いたことがあるのかもしれない。
認識できていないだけという可能性も、0%ではないかも?と思って質問しました。
【齋藤】
音楽を "聞いている" かはわからないけど、もしかしたら音楽を「触ったり」「なめたり」「眺めていたり」することはあるのかもしれないですねー。
覚えてないけど…。
そんな感じで別の感覚となって現れてくるとは思います。
【尾崎】
ちょっと見ている人に質問とか…。
何か質問がある人、いますか?
【質問1】
前のページで、齋藤さんが "世界" って2回書いているんですけど、齋藤さんのいう世界ってなんなんですか?
【齋藤】
えーと…「写真みてね♡」としか言えないですね。
《会場/笑》
【尾崎】
なんで写真を選んだの?
文章がうまいのを知ってるけど。リズムのある文章で。
【齋藤】
うまいの!? まじでー。ふふふ。
《会場/笑》
【尾崎】
僕の場合は "カメラマン" って言えばいろんな人に会えるから、写真を選択した。
だから写真は僕の中ではツールであって、普段はほとんど写真のことを考えない。
写真と言葉ってすごく難しい。
【齋藤】
言葉だと (僕の知識がつたないこともあるけど…) さっき言った、
「むしろ "人" とか "種" で分けることに抵抗がありますね。差別の構造から抜けられないと思う」
↑この "種で分ける" ということが、どうしても起こってしまうんですね。
そこがいや。
でも写真なら、言葉だと対立してしまうようなものを、平然とポンッと1枚に収めて両立できる。
そこがいい。
たとえば "光と影" "右左" "上下" "男女" …
こうして言葉でみると、ふたつに分かれるけど、写真ならそんなことも考えないまま、ただひとつになってる。
それがいいなと思う。
【質問2】
"音楽をなめる" とか、いろんな表現が出てきましたけど、それってどういう感触ですか?
聞こえない人が音楽を感じる手段/部分(?)なんでしょうか?
【齋藤】
そう感じる人もいるかもね…という例えで、僕は感じてないです。
【質問3】
四感の中で、1番鋭いのはなんですか?
【齋藤】
"1番" とかないと思うんですよね。
感覚って、ただただ ◯ (マル) 。ボールのようなもの。
ボールに空気がつまってるのはわかるけど、"エベレスト山の空気" とか "多摩市の空気" とかわかんないじゃないですか?
ということで、一番と言われると、わからないです…。
【尾崎】
ちなみに生理学的に言うと "第六感" というのが見つかって、それは自分を認識する感覚のこと。
たとえば五感で感じとったものを、統合できなければ認識できないようなかんじ。
【齋藤】
うーん、五感とか六感とか四感とか…
そういう言葉があるからさ、増えたり減ったりするんですよ。
【尾崎】
鋭いと思っている感覚は?
【齋藤】
好きなのは味覚かなー。尾崎さんは?
【尾崎】
うーん…。味覚はないかな?
ロンドンの飯がまずいのがわかるぐらい。
《会場/笑》
【質問4】
写真で絶対にやりたくないことはなんですか?
【尾崎】
今までに撮らなかった人は…イギリスのときに「刑務所を撮らないか?」って言われました。
そこには殺人者がいっぱいいて、でも被害者の家族のことを考えて撮らなかったことはあるけど…。
【齋藤】
ひとりの被写体に対して、数多く撮ること…ですね。
1回の撮影でたくさん撮りたくない。
そういう意味で、ペンタ67の10枚は丁度良いです。
【尾崎】
たしかに2人に共通なのは、1回の撮影が短いこと。
【齋藤】
尾崎さんは、なぜ短くなりましたか?
僕は友達が身体に何かしらある人が多いので、無理に撮れないということから始まっています。
【尾崎】
それまで結構一緒に時間を過ごしてから撮るので、どのタイミングで撮ればいいのかわかっているから。
30分で人のことをわかるほど、僕は人間ができていないので…。
【齋藤】
30分とか、時間じゃないと思うなあ。
永遠のような10秒だってあるしさー。
【質問5】
写真展のタイトルの由来は?
【尾崎】
「ポーッとチョコレイト」
「ポー と れいと」って、齋藤さんが考えたから。
【齋藤】
「ポートレートをテーマに展示しよう」と言われて…
ポートレートの根源とか考えたんですが、やっぱりあんまりむつかしいことではない。
「惚れた」とか「心揺さぶられた」とか、それが基本だから。
まるきりちがう存在が目の前にいる。
なぜそこにいるのかわからない。
けど、今、いる。
向かい合ってる。
見つめる。
まなざしを交わす。
言葉じゃないものを交わす。
ふと自分のような気がして。
自分の内に孕むものがそこにいて、見ている。見られている。。。
撮る。
その根底にあるのは、ポーッと甘い気持ち。
ものすごく甘いチョコレイトをなめたようなかんじ。
【質問5】
どうして2人で展示することになったんですか?
【尾崎】
たぶんこの中で写真をやってる人は多いと思うんですが、1番難しいのは作品を継続して制作し続けることで、写真家になることは簡単だけど、写真家として死ぬことは難しいと思う。
齋藤さんの場合、見ることが生きることに直結するんで、そういった意味で、今後も写真を撮り続けると思うし、そういう人がいないと僕も心折れることもあるんで…。
それから同い年ということもあって、1回一緒にやりたいと思ったからです。
【齋藤】
たしか4/13…?
【尾崎】
16。
【齋藤】
僕は…
【尾崎】
9/3でしょ?僕のが先輩だから。笑
<終了>

お忙しい中ご来場いただいた方、ありがとうございました!!
筆談トークイベントにお越し頂いた方がツイッターで僕と齋藤さんが武蔵と小次郎みたいだったと言っていて、10年おきぐらいに二人展やれるといいねということで、10年後の40歳になった時の展覧会のDMの写真撮影。
あと、筆談トークイベントにご参加頂いた方が、ありがたいことに文字おこしをして頂きました。
興味のある人は読んでみて下さい。
二人ともども、今年は今からイベントごと目白押しなので、今後ともよろしくお願いします!!!
<開始>
【齋藤】
18:00。
【尾崎】
じゃあ開始します。
【齋藤】
こんにちはー。齋藤です♡
《会場/拍手》
【尾崎】
尾崎です。よろしくお願いします。
《会場/拍手》
【尾崎】
始めはスライドショーを流します。
-------------------------------------
[尾崎さんのスライド/5分]
-------------------------------------
【尾崎】
すいません、僕だけちょっと言葉で説明します。
このスライドショーは…
最初は「写真は私たちの記憶を記録できるんですか?」という、海外で撮った写真になっています。
ロンドンで健常の方と障がいのある方の劇団をちょっと撮っていまして、最初にこれを見せたかったのは、僕は視覚障がいのある方に写真を教えているんですね。
で、さっきの女性の方に「この世で最も美しいものはなんですか?」「美とはなんですか?」と質問したところ、その人の答えが「人間」だったので、「じゃあ僕も人間なんで、僕を撮ってくれませんか?」とお願いして撮っていただいたことから、視覚障がいのある方に写真を教えているっていうのをやっています。
で、最後のほうに僕の写真が出てくるんですけれども…
この抽象的なやつは、使っていただいたカメラで僕も同じように撮った写真で、ああいうふうになったのが、目の見えない人に近い記憶じゃないのかな?と思って、この写真集の中に入れているものです。
( "尾崎さんが写った写真" )
…この写真がそうです。まだ若い。笑
《会場/笑》
【尾崎】
7年ぐらい前っすかね?
で、これは『ポートレート』っていう写真集で、いろんな方のポートレートを撮っているんですけれども、特に何かキャプションをつけるということはやっていないんですね。
つけると…
たとえばさっきの女性の方の写真とかもそうですけれども、"性同一性障害" って書いたら、たぶんもう男にしか見えなくなってしまうので、そういう言葉の要素というのを排除して、ただただ写真を並べたものというかんじで…。
なのでたぶん写真からだけだと…
この展示もそうですけど、どなたが障がいがあって、どなたが障がいがないのかわからないようには
あえて撮っているつもりですね。
そこまでは重要な要素ではないので。
で、たぶんそのうち、ここ2、3年やっているヌードのやつが始まると思います。
……。
これで僕の写真自体は終わりです。
これもある程度まとまっていまして、去年ここで、を展示させてもらって、それからも撮りためていますので、さっきのヌードと、普通のポートレートのやつと、こういうちょっと抽象的なものを、来年あたりに展示しようと思っています。
今回は状況を説明するような文章を、その中に入れてみようかなと思っています。
( "裸の女性2人の写真" )
この写真に対しての撮影日記みたいなのがありまして、それを読ませていただいて、僕のスライドショーを終わりにします。
じゃあ読みます。
「仕事の撮影が終わり、編集者に「尾崎さんが興味ありそうなところに連れて行きますよ」と、新宿のとある雑居ビルに連れて行かれた。
男性数人と女性数人がカウンターで酒を飲んでいる。
反対側にはソファーが数個置かれ、ソファーに囲まれた広い空間が真ん中にある。
編集者からオーナーを紹介され、ふだん持ち歩いている写真集のポストカードを見せながら少し自分の話をし、カウンターで一緒に飲み始めた。
女性2名にヌードを撮っている話をし、「撮らせてもらえないか?」と話を進める。
2人ともに了承を得た後、反対側の空間にバックヤードから出してきたマットレスのベッドを敷き、
撮影の準備を始める。
ベッドを準備する隣で、すでに女性は服を脱いだ状態で待っている。
準備が終わったことを告げると、ベッドの上で少し恥ずかしながら2人は絡み始めた。
それをファインダー越しで見ながら、私はコンパクトカメラのシャッターを切る。
「母親が死ぬまで、母親とするセックスが1番気持ち良かった」と、カウンターで近親相姦の性癖を話しているスーツ姿の中年男性が、その状況に興奮したのであろう。
ズボンを下げ、マスターベーションをし始める。
それを横目に私はシャッターを切り続ける。
結局 私も普通の感覚と違っていて、一般常識で考えれば「異常である」と他人から思われるだろうと最近考える。
私が狂っているのか?
世界が狂っているのか?
また、こういう状況に直面すると、どこまでが日常と地続きで、どこからが非日常なのか。
その境目がドア1枚なのか(?)と感じてしまう。
マスターベーションを行う男性に、「彼女たちがOKならば、あの中に混じってみたらどうですか?」と尋ねると、「こっちのが気持ちいい」と、そのまま自慰行為を続けた。
それを聞いていたカウンターに座っていた男性の1人が「混じっても大丈夫ですか?」と私に問いかけてきて、それを聞いていた女性2人も「OK」と返事が来て、男性は服を脱ぎ、女性2名の間に入っていった。
そのまま私は目の前の人たちに向け、シャッターを切り続けた。
…って、こうやってずっと流れて、他の写真とかも、こういう状況で作っているんですけれども、また来年ぐらいに展示すると思うので、良かったらぜひよろしくお願いします。
じゃあ以上です。ありがとうございます。
《会場/拍手》
【齋藤】
次は僕のスライドを5分ぐらい…。いきます。
-------------------------------------
[齋藤さんのスライド/5分]
-------------------------------------
【齋藤】
終わり!
《会場/拍手》
【齋藤】
5分。あっというま…ね。
【尾崎】
映画を見ているときってどんな感覚?
スライドショーって "音" がないから同じような感じかな、と。
【齋藤】
映画に音がないのが当たり前だから、考えたことないなー。
スライドを見ているときと近いかも。
北野武さんの「いい映画は10枚の写真みたいなものだよ」というセリフにはすごく共感しますね。
【尾崎】
↑黒澤明が初めに言ったのを、北野武がパクったって言ってた。
【齋藤】
へー。僕はTwitterのbotで知った。
【尾崎】
本題で…ポートレートを撮影するときって、どういうタイミングで撮ってるの?
僕らは言葉で色々と指示できるけど…
特に "目" のタイミングとか。
【齋藤】
"目" のタイミング?
【尾崎】
目をつむったりするから。
【齋藤】
僕の撮り方…。
聞こえないということは、写真自体には関係ないけど、音声言語が多数の社会で撮っていくということについて、どうすればよいかずっと考えていました。
今思うことは、"姿勢の良いまなざし" に焦点を合わせて撮っているかなということです。
【尾崎】
僕はポートレートを撮る人は、いつもかなり一緒に時間を過ごしてから撮ります。
たとえば障がい者の施設とかの場合、1年くらいとか。
なので実際に撮影する枚数は、かなり少なくて5枚ぐらいとかかな。
失敗しても「知ってる人だからまた撮れる」っていう状態になってから撮るってかんじ。
仕事はそういうふうにはいかないけど。
【齋藤】
関係づくりから始める…ということですね。
【尾崎】
じゃあ逆に、音が聞こえなくてポートレートを撮るときとか、"人" を見るってことに関して良かったことはある?
知人の失語症の人が、言葉の意味がまったくわからない人なんだけど、そのかわり相手の表情や言葉の音だけで、その人が嘘を言ってるかどうかが一発でわかるっていう人がいて…
【齋藤】
"まったくわからない" とは…?
【尾崎】
理解できない。
全然知らない外国語を聞いてるかんじ。
【齋藤】ふぅん。
音がない=言葉でのやりとりができない…ということでもあって。
でもそれは動物とか植物とかに対しても、
まったく同じ条件なわけですよね。
なので尾崎さんの "人を見る "という言葉を借りると、
「人を人として見ない」から撮れる…と思っています。
たとえもの言わぬものでも、もしかしたら何かをしゃべろうとしているんじゃないかという可能性を保つことができる。
"存在のかたまり" として、すべてを等しく見ることができる…と思っています。
"人" とか "種" で分けることに抵抗がありますね。
そのままでは「差別」の構造からいつまでたっても抜けられないと思う。
【尾崎】
だから今回の展示も "ポートレート" っていうテーマで、
人以外の写真もたんさんあるっていうこと?
【齋藤】
はい。
【尾崎】
僕の場合、人間しか撮ったことがないし、それが僕の写真で追求するテーマだから、犬とか猫とか撮らないのかなぁ。
風景も唯一撮ったことがあるのは、アウシュビッツ収容所のみ。
【齋藤】
アウシュビッツ…。
【尾崎】
うん。で、結局 "人" ってかんじ。
【齋藤】
そこにいた人たちの気配として…。
【尾崎】
うん。ある意味で何もないところだけど、ものすごく人の重さを感じる場所。
特にガス室。
…全然話が変わるけど、夢の中で音楽って聞いたことはありますか?
【齋藤】
夢の中…。
僕は夢を覚えられないんですよね。
べつの例として、今すぐちかくに、ろう者の人がいるので聞いてみます。
……。
「まったくない。そもそも音ってあるの?」だそうです。
【尾崎】
僕の知人の先天的視覚障がい者の人が、生まれてから一度も世界を見たことがないけど、夢の中では映像が出てきて…
「寝ると世界が見える」っていう人がいて…。
【齋藤】
"世界がみえる" ?
世界…。
でも、僕らとはまったくちがう世界ですよね。きっと。
【尾崎】
うん。同じような他の先天的視覚障がい者の人は、「そもそも見たことがないのに、どうしてそれが映像だとわかるのか?」って。
だからもしかすると、齋藤さんも音楽を聞いたことがあるのかもしれない。
認識できていないだけという可能性も、0%ではないかも?と思って質問しました。
【齋藤】
音楽を "聞いている" かはわからないけど、もしかしたら音楽を「触ったり」「なめたり」「眺めていたり」することはあるのかもしれないですねー。
覚えてないけど…。
そんな感じで別の感覚となって現れてくるとは思います。
【尾崎】
ちょっと見ている人に質問とか…。
何か質問がある人、いますか?
【質問1】
前のページで、齋藤さんが "世界" って2回書いているんですけど、齋藤さんのいう世界ってなんなんですか?
【齋藤】
えーと…「写真みてね♡」としか言えないですね。
《会場/笑》
【尾崎】
なんで写真を選んだの?
文章がうまいのを知ってるけど。リズムのある文章で。
【齋藤】
うまいの!? まじでー。ふふふ。
《会場/笑》
【尾崎】
僕の場合は "カメラマン" って言えばいろんな人に会えるから、写真を選択した。
だから写真は僕の中ではツールであって、普段はほとんど写真のことを考えない。
写真と言葉ってすごく難しい。
【齋藤】
言葉だと (僕の知識がつたないこともあるけど…) さっき言った、
「むしろ "人" とか "種" で分けることに抵抗がありますね。差別の構造から抜けられないと思う」
↑この "種で分ける" ということが、どうしても起こってしまうんですね。
そこがいや。
でも写真なら、言葉だと対立してしまうようなものを、平然とポンッと1枚に収めて両立できる。
そこがいい。
たとえば "光と影" "右左" "上下" "男女" …
こうして言葉でみると、ふたつに分かれるけど、写真ならそんなことも考えないまま、ただひとつになってる。
それがいいなと思う。
【質問2】
"音楽をなめる" とか、いろんな表現が出てきましたけど、それってどういう感触ですか?
聞こえない人が音楽を感じる手段/部分(?)なんでしょうか?
【齋藤】
そう感じる人もいるかもね…という例えで、僕は感じてないです。
【質問3】
四感の中で、1番鋭いのはなんですか?
【齋藤】
"1番" とかないと思うんですよね。
感覚って、ただただ ◯ (マル) 。ボールのようなもの。
ボールに空気がつまってるのはわかるけど、"エベレスト山の空気" とか "多摩市の空気" とかわかんないじゃないですか?
ということで、一番と言われると、わからないです…。
【尾崎】
ちなみに生理学的に言うと "第六感" というのが見つかって、それは自分を認識する感覚のこと。
たとえば五感で感じとったものを、統合できなければ認識できないようなかんじ。
【齋藤】
うーん、五感とか六感とか四感とか…
そういう言葉があるからさ、増えたり減ったりするんですよ。
【尾崎】
鋭いと思っている感覚は?
【齋藤】
好きなのは味覚かなー。尾崎さんは?
【尾崎】
うーん…。味覚はないかな?
ロンドンの飯がまずいのがわかるぐらい。
《会場/笑》
【質問4】
写真で絶対にやりたくないことはなんですか?
【尾崎】
今までに撮らなかった人は…イギリスのときに「刑務所を撮らないか?」って言われました。
そこには殺人者がいっぱいいて、でも被害者の家族のことを考えて撮らなかったことはあるけど…。
【齋藤】
ひとりの被写体に対して、数多く撮ること…ですね。
1回の撮影でたくさん撮りたくない。
そういう意味で、ペンタ67の10枚は丁度良いです。
【尾崎】
たしかに2人に共通なのは、1回の撮影が短いこと。
【齋藤】
尾崎さんは、なぜ短くなりましたか?
僕は友達が身体に何かしらある人が多いので、無理に撮れないということから始まっています。
【尾崎】
それまで結構一緒に時間を過ごしてから撮るので、どのタイミングで撮ればいいのかわかっているから。
30分で人のことをわかるほど、僕は人間ができていないので…。
【齋藤】
30分とか、時間じゃないと思うなあ。
永遠のような10秒だってあるしさー。
【質問5】
写真展のタイトルの由来は?
【尾崎】
「ポーッとチョコレイト」
「ポー と れいと」って、齋藤さんが考えたから。
【齋藤】
「ポートレートをテーマに展示しよう」と言われて…
ポートレートの根源とか考えたんですが、やっぱりあんまりむつかしいことではない。
「惚れた」とか「心揺さぶられた」とか、それが基本だから。
まるきりちがう存在が目の前にいる。
なぜそこにいるのかわからない。
けど、今、いる。
向かい合ってる。
見つめる。
まなざしを交わす。
言葉じゃないものを交わす。
ふと自分のような気がして。
自分の内に孕むものがそこにいて、見ている。見られている。。。
撮る。
その根底にあるのは、ポーッと甘い気持ち。
ものすごく甘いチョコレイトをなめたようなかんじ。
【質問5】
どうして2人で展示することになったんですか?
【尾崎】
たぶんこの中で写真をやってる人は多いと思うんですが、1番難しいのは作品を継続して制作し続けることで、写真家になることは簡単だけど、写真家として死ぬことは難しいと思う。
齋藤さんの場合、見ることが生きることに直結するんで、そういった意味で、今後も写真を撮り続けると思うし、そういう人がいないと僕も心折れることもあるんで…。
それから同い年ということもあって、1回一緒にやりたいと思ったからです。
【齋藤】
たしか4/13…?
【尾崎】
16。
【齋藤】
僕は…
【尾崎】
9/3でしょ?僕のが先輩だから。笑
<終了>

by daisukeozaki
| 2013-09-30 21:19
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