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写真家・尾崎大輔のblog


by daisukeozaki
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「日本海軍 400時間の証言 軍令部・参謀たちが語った敗戦」(新潮文庫)

娘が出来てからなかなか映画を見に行く時間もない中で、本はどこでも読めるので、あいも変わらず結構雑多に読んでます。今日撮影の空き時間が結構あって、1冊読み終わったんですけど、おそらく今年のベストになるぐらい良かったので、久しぶりに紹介&感想を。有名な本なので、読んでいる人は結構いると思います。

「日本海軍 400時間の証言 軍令部・参謀たちが語った敗戦」(新潮文庫)。
軍令部に在籍したかつての参謀を中心として戦後開かれた「海軍反省会」。その録音記録が現存することが判明。発掘された元エリート軍人達の赤裸裸な発言が、開戦の真相、特攻作戦に至る道程、東京裁判の裏面史を浮かび上がらせていくといった内容。もともとはドキュメンタリー番組でそれが書籍化されたものである。
特攻隊に関する本はいくつか読んだが、多くは特攻隊として死んでいった兵士の美談や家族への思いなどのものが多い。日本人で特攻隊を知らない人はほとんどいないであろう。一方、どうして日本は特攻作戦を誰がどのように始めていったのかなどを知る人はほとんどいない。また、太平洋戦争が始まったのは226事件以降の陸軍の暴走によるものというのは知っていたが、その裏でどのようなことが行なわれていたのかこの本を読んで初めて知った。

「月刊誌の終戦特集号は売れる」ということがエピローグに書かれている。毎年八月、著名なオピニオン誌では、必ず終戦特集が企画される。「陸海軍はなぜ失敗したのか」といったタイトルで、戦争に詳しい作家や評論家が座談会形式で語り合う。陸海軍という組織がどうして選択を誤ったのかということやリーダーシップのありようがよくテーマにされる。
終戦から既に60年以上が経つのに、なぜこうした記事が受けるのか。それは「読者がいまの企業社会に同様の問題点を見いだしているからではないか」というものだ。

本書を読んで思うのは、間違っていると分かっていても「NO」と言えない、人間の弱さ。組織の中で翻弄され、大きなうねりにあらがうことの出来ない、人間の哀しさ。組織というものが決定し、その決定に対する責任のあいまいさ。
また、この本から福島の原発事故や現在の集団的自衛権の問題を想起される方も多いだろう。今と何がちがうのであろうか。

カントは人間の根源悪は真理を優先せずに幸福を優先してしまうことといった。帯文にあるように「海軍あって国家なし」と自分達の仕事に埋没し、国民のことを考えず、自分達の組織に予算が回ってくるかを優先、果てに戦争にGOサインを出してしまった国があった。
昔から日本の戦争加害者としての側面に興味があり、南京事件や731部隊、東南アジアに対しての加害に関する書物はたくさん読んだ。本書では他国に行なった加害だけでなく、国内で起っていた自分達が生き残るための自国民に対する一種の‘加害’も東京裁判の裏面史から伝わってくる。

尖閣諸島問題を巡って戦前の‘日米もし戦わば’のごとく、海上自衛隊と中国海軍がもし戦えば‘という類の記事が散見し、中国や韓国との緊張状態が高まり、「領土・領海・領空」、「国民の生命・財産」を守ってくれて感謝すると自衛隊をたたえる国会議員。
「自衛隊の皆さんが戦火を交えずに済むように食い止められるのが我々の仕事です。皆さんの命を守るのが政治の役割です」という国会議員が少なくなった昨今、後世の歴史家が「ターニングポイントだった」と評価・分析されないように今を生きている人が読むべき本だと思います。


 「日本海軍 400時間の証言 軍令部・参謀たちが語った敗戦」(新潮文庫)_d0170694_21372750.jpg

by daisukeozaki | 2014-08-28 21:38 | Comments(0)